NEW【保護者向けコラム】 僕が闇バイトに“落ちた”理由 元「かけ子」が語る後悔

SNSなどで高報酬をうたい、強盗や詐欺に誘い込む闇バイト。青少年が目先の金銭を手に入れるため、甘い言葉に誘われて重大犯罪に加担してしまうことが社会問題となっています。20代前半で特殊詐欺の「かけ子」として闇バイトに足を踏み入れ、のちに逮捕されて実刑判決を受けたAさんにインタビュー。なぜ闇バイトに“落ちた”のか、その後に何が待ち受けていたのか――。経験者として感じる闇バイトの怖さ、そして若い世代が犯罪に手を染めないために必要な視点を聞きました。

元「かけ子」の当事者が考える「ストップ!闇バイト」3つのポイント

  • 「普通の子もターゲット」 危機感を持つ
  • 断れない、抜けられない その前に引き返す
  • スマホやバイト 子どもと一緒にルール作りを

元「かけ子」が見る闇バイトの今

Aさんが闇バイトに足を踏み入れたのは今から20年ほど前。当時、「闇バイト」という言葉はまだ一般的ではなく、「裏仕事」と呼ばれていたという。闇バイトが強盗や殺人にまで発展する事件も多発し、深刻な社会問題となっている現状をどう見ているのか。

当時はお金を持っている人の家に電話し、言葉巧みにお金をだまし取る手法を使っていました。近年は「テレグラム」など秘匿性の高いメッセージアプリが発達したことで、指示役が「捨て駒」のように若者を使い、詐欺だけではなく、直接お金を持つ人の家に奪いに行くような凶悪な犯罪にも闇バイトが広がっています。犯罪組織の側から見ると、闇バイトを使えば自分たちは捕まらず、手っ取り早く金品を得ることができるので、都合のいい存在なのです。

Aさんが指摘するように、20年前と大きく異なるのが、SNSの進化と若年層への広がりだ。今年はじめにはミャンマーを拠点にした特殊詐欺に16歳の日本人少年が関わっていたとして現地で保護され、帰国後に逮捕された。Aさんは「闇バイトのターゲットが普通の中高生にまで広がっている」と見る。
これまでは地元の先輩後輩や不良グループとのつながりの中で「やってみないか?」と誘われ、犯罪行為に加担してしまう若者が多かったと思います。今はSNSを使うすべての人が闇バイトのターゲットになってしまっている。気軽なアルバイトのような感覚で「高収入」とだまされて加担し、脅されて抜け出せなくなってしまう状況があるのではないでしょうか。闇バイトの危険が身近に迫っている状況だと思います。

20代前半で闇バイトに“落ちた”理由

Aさんが闇バイトに関わり始めたのは20代前半だったが、中高生の頃から犯罪や社会のルールに対する意識は希薄だったという。その生い立ちからは、保護者にやりたいことを否定され続け、孤立を深める中で犯罪に手を染めることになってしまった状況もうかがえる。

小学5年生のときに母が再婚し、義父と暮らすようになって生活が一変しました。義父は母や私が思い通りに動かないと激怒する人で、私の願いは何も聞いてくれなかった。私が演劇をやりたいと願うと否定され、「男はスポーツをやれ」と強制されて仕方なく野球をやっていました。

自分がやりたいことをできず、すべて義父に隠れてやるしかなかった。欲しいものがあっても買ってもらえず、高校生になってアルバイトをしたくても許されなかった。自分の欲求を満たすために盗むという選択をしてしまっていました。お菓子を盗むところから少しずつエスカレートし、「隠れてやれば問題ない」「バレなければいい」と思っていたのです。僕にとって家庭は安心できる場所ではなく、「居場所がない」と思っていました。つらい気持ちを相談できる人もおらず、どんどん卑屈になり、高校も中退して自信を失っていきました。

罪悪感と恐怖心、それでも深みにはまった

それから仕事を転々とした。夜の歓楽街で接客の仕事をしていた際、客から「昼の仕事をしないか」と声をかけられた。それが詐欺の「かけ子」の誘いだった。

お店には高価な時計やかばんを持ち、高そうな服を着たお金持ちの人がたくさん来ます。高級なご飯を食べに連れて行ってもらうこともありました。そんな中、出会った客から「夜の商売なんかやめて、金融関係の仕事をしてみないか?」と誘われたのです。

「人生を変えようよ」――。甘い言葉に引かれてファミリー層が住む賃貸マンションの一室に向かうと、そこは特殊詐欺の拠点だった。様子を見ているうちにすぐに詐欺だと気がついた。だが身分証のコピーを渡していたことから、逃げたら何をされるかわからないと不安がよぎり、詐欺の「かけ子」をするようになった。数年でこのグループを抜けることができたが、20代後半、知人にだまされてまたもや詐欺に手を染めることになった。「学歴も職歴もない自分が、豊かな人生を送るには何をすればいいのか」と悩んでいた頃だった。

今度は詐欺グループの主犯格として関わるようになりました。当時は結婚して子どももいたのですが、家族には営業の仕事をしていると偽って、自宅では「良きパパ」を演じていました。自分が子ども時代に経験できなかった「幸せな世界」を、うそをついて築き上げていた。その頃には、詐欺をすることの罪悪感やちゅうちょする気持ちは薄れていました。

詐欺グループの主犯格として大金を手にしたこともあったが、そんな生活は長続きしなかった。30代半ばで警察に逮捕されることに。「人生終わった」――。逮捕された日の光景と強い恐怖心を、Aさんはいまも鮮明に覚えている。

「人生詰んだ」 全てを失って気づいたこと

裁判では反省の弁を述べたものの、「心からの反省はしていなかった」とAさんは率直に振り返る。実刑判決を受け、「人生が詰んだ」と思っていたAさん。服役中に家族との関係も失った。しかし、刑務所で手にした本が、その後の生き方を変えることになった。

刑務所で本を読んでいくうちに、いろいろと考えるようになったのです。僕はなぜここにいるのか、なぜ罪を犯したのか、なぜこれほどまでに人に迷惑をかけることをしてしまったのか、と。このままでは出所しても同じことを繰り返す。どうしたらよいか考えたとき、本に載っている言葉を実践すれば、利己的な人間から、利他的な人間になれるのではないかと思ったのです。

Aさんが出所するまで毎日読んでいたというノートには、本から抜粋した言葉や、心に響いた文章がびっしりと書かれていた。幼少期から何か問題が起きても場当たり的に対処することが多かったAさんだったが、問題が起きた理由やどうすれば解決するのかを「考える」ということができるようになっていったという。

何かに悩み、つまずく若者がいたら「とにかく話を聞かせて」

出所から数年が経ち、現在は自身の経験を伝えることで、若者が犯罪行為に関わらないよう伝える活動にもたずさわる。闇バイトや犯罪に関わる手前にいる若者が身の回りにいた場合に、大人は何ができるのか。

闇バイトに関わる若者の中には、何か悩みを抱えていて、だまされたり脅されたりしてやってしまう子もいると思います。誰も自分の気持ちをわかってくれない、そんな思いを我慢して口に出せない状況かもしれない。自分の気持ちに共感してくれる人をすごく必要としていると思います。だから「とにかく心配だから、もし良かったら話を聞かせて」「何か力になれることがあれば話してほしい」と僕だったら伝えます。

闇バイトを防ぐために社会として取り組むこととして、Aさんは犯罪に関わったら何が起こるのか、自分の未来も、家族の未来も全て壊してしまうという事実をしっかり若年層に伝えることの重要性を訴える。普段から家庭の中でそうしたことを伝えることや、子どもと一緒にルールを作ることの大切さも語った。

保護者が勝手にルールを決めると、子どもは反発します。スマホの使い方にしても普段からルールを話し合い、秘匿性の高いアプリが入っていたら、注視してあげてほしい。アルバイトをする場合も「やりたいときには必ず相談して」とルールを決めておく。そうすると、「どんなアルバイトをしたいの?」「こんなのもあるよ」と会話が広がります。子どもが大人になることを、保護者が応援してあげることが大事だと思います。

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