NEW【保護者向けコラム】 まさか、うちの子が闇バイト?犯罪心理学者に聞く異変のサイン
SNSなどで高報酬をうたい、強盗や詐欺に誘い込む闇バイト。青少年が目先の金銭を手に入れるため、甘い言葉に誘われて重大犯罪に加担してしまうことが社会問題となっています。誰もがスマホを持ち、SNSにアクセスする時代。周囲の目の届かないところで子どもが闇バイトに足を踏み入れてしまう前に、保護者や大人が意識すべきこととは――。 法務省の心理職として、全国の少年鑑別所や刑務所で犯罪者の心理分析をしてきた東京未来大学の出口保行副学長に聞きました。
出口さんが考える「ストップ!闇バイト」3つのポイント
- 「これくらいなら大丈夫」という子どもの確証バイアスに注意
- 子どもの異変に気づくには、日常生活をよく見ることから
- 小さなサインを感じたら「何かあった?」と声かけを
“普通”の若者が闇バイトに関わる背景とは
闇バイトに関わる事件の報道が続いている。中高生世代を含む若年層への広がりに加えて着目されているのが、 非行少年や不良だけではなく“普通”の若者にも闇バイトが広がっていることだ。2024年10月に横浜市で起きた闇バイトによる強盗殺人事件で逮捕された22歳(当時)の男は、報道によると普段は塗装工として週6日働き、家族とも同居していた。出口さんはこうした状況について「犯罪者の素人化が進んでいる」と解説する。
少年鑑別所で働いていたときに多くの非行少年たちに出会いました。従来は、ある程度の大きな事件を起こす少年は、それ以前に小さな非行を重ね、その体験に裏打ちされて徐々に行動がエスカレートしていっていました。しかし、いまは普通に生活し、何の犯罪にも関わったことがない若者がある日突然、犯罪に手を染める事例も散見されています。

こうした「犯罪者の素人化」に拍車をかけているのが、SNSの広がりだ。「日給数万円」「簡単な仕事で高額報酬」といった誘い文句があふれ、若者が犯罪に関わるハードルを低くしている。さらに、ネット上に真偽不明な情報があふれ、自分に都合のいい情報ばかりを重視し、不都合な情報を軽視する「確証バイアス」に影響されやすくなっているという。
確証バイアスは誰にでも起こりますが、いまはネット上で「犯罪だと気づいたとたんに引き返せる」「この程度の行為であれば絶対にパクられない」など真偽不明の情報や体験談がたくさんあふれ、確証バイアスが非常に働きやすくなっています。「逮捕されるかもしれない」や「そんなうまい話はない」といった自分に不都合な情報は捨て去り、「これくらいなら大丈夫」と判断してしまうのです。
SNSの時代、親が子どもの異変に気づくには
こうした心理を巧みに利用する犯罪グループに、若者が関わらないようにするためには、社会や大人がどんなことに取り組めばよいのだろうか。出口さんは、多くの犯罪者の心理分析を踏まえて「攻める防犯」を推奨していて、保護者が子どもと関係をつくる上でも、この考え方が活用できると語る。
犯罪の動機があっても、リスクとコストが高いと判断すれば犯罪は行われません。リスクとは検挙されるリスク、コストとは検挙によって失うものの大きさで、家族や友達、仕事、信頼などが含まれます。「攻める防犯」とは、犯罪者にとってリスクとコストが高い状況をつくる考え方です。
たとえば、「あいさつ」も防犯になります。犯罪者が空き巣に入るシーンを想像してください。どの家に入ろうかと物色しているとき、誰かにあいさつをされると、犯罪者にとっては「いつ、どんな服装をして歩いていたか」を知る目撃者が一人いることと同じで、ただちにリスクとコストを意識させることにつながります。
この考え方は保護者と子どものコミュニケーションでも活用できます。一番大事なのは、子どもを観察すること。子どもは悪いことをしようとするとき、必ず何かのサインを出します。そのときに「あなたのことを見ているよ」「大事に思っているよ」と親もサインを出すことで、子どもは悪いことをすることをちゅうちょします。
親が自分を見守ってくれていると感じることで、その親を裏切れない、親につらい思いをさせてしまうという気持ちが芽生え、大切な家族を失ってしまうかもしれないというコストの意識が高まるからです。

闇バイトの入り口としてスマホやSNSの影響が大きくなり、親の目が届きにくくなっている現状もある。そんな中で観察し、サインに気づくための具体的なポイントはあるだろうか。
普段から子どもの様子を観察し、「イレギュラー」がないか敏感になることが大事です。イレギュラーのあらわれ方は、たとえば目つきや話し方、物事に取り組む意欲の変化など、子どもによって異なります。
保護者が子どものどんなところに注意するべきかを考える上では、心理学者のサイモンズが考案した「養育態度の4タイプ」を意識するといいでしょう。これは、子育ての態度や行動を「過保護型」「高圧型」「甘やかし型」「無関心型」という4つのタイプに分類した考え方で、自分がどれに当てはまるのか、まずは親自身が自分を知ることがポイントになります。

たとえば過保護型で言うと、子どものことが心配で先回りして問題を解決してしまいがちです。行き過ぎると子どもが保護者に依存し、進学や就職といった壁を自分で乗り越えることができなくなります。基本的にどんな保護者もどれかのタイプに偏っていますが、それ自体が悪いのではなく、自分がどのタイプに入るのか、どんなことに気をつけなければならないのか、自己点検することが大事です。
保護者の目が届きにくいSNSやスマホの使い方についても、家庭内で子どもと話し合ってルールを作ることが大切です。保護者が4タイプのどこかに偏り過ぎていると、保護者と子どもの双方が納得し、子どもにとって適切で効果的なルールは作れません。
さらに「養育態度の4タイプ」を自身で点検するだけではなく、家庭内で目線を合わせていくことも重要だという。
たとえば家庭内で父親と母親の養育態度が一致していないと、子どもは混乱します。お父さんは習い事に行けと言っているのに、お母さんは行くなと言っていたら、子どもはどうすればよいかわからなくなる。子どもが混乱しないよう、家庭内で養育態度が一致しているか話し合うことが非常に大事です。
もし自分の子に異変が起きたら

普段から子どもを観察し、異変に気づいた場合には声をかけることが重要だという。とはいえ、どのように声をかけたらよいか悩む保護者世代も多いだろう。どんな心構えが必要だろうか。
異変に気がついたら、数日後でもよいから「最近何かあった?」と一言声をかけてほしいです。その場ですぐに反応しなくてもいい、しつこく聞く必要もありません。ただ、言葉にしなければ伝わりません。短くていいから口に出して、(異変に)気づいているよ、というサインを出すことが大事です。一方で、SNSに危険が潜んでいること、ネット上に真偽不明の情報があふれていることについては、教えるしかない。学校でITリテラシーは教えられていますが、家庭内でも話していくことが大事だと思います。
同時に、本を読んだり、人と話したり、「リアル」なものに興味を持ってもらうよう保護者が働きかけることも重要だと思います。こういう時代だからこそ、自分の足で行動し、行動を通して情報を得ることは大事ですよね。そういうリアルな学びを、まずは保護者自身が大事に思っていると伝えることが必要だと思います。
親子の関係づくりをする上でヒントになりそうなのが、出口さんが自身の家庭内で実践してきた「模造紙家族会議」だ。進路の選択など家庭内の重要なテーマを話し合う際に役に立っていたという。
テーブルに模造紙を置いて、子どもに自分が思っていることを書いてもらいます。たとえば、進学先で悩んだときには、子どもが何に興味があるのかをどんどん書いていき、私は「これとこれはつながっているんじゃない?」と線でつないでいく。興味が言語化されビジュアルになることで、子どもが自分の考えを整理する機会になります。保護者にとっても、子どもがいま何に悩んでいるのかキャッチアップする機会になります。たまたま我が家で始めた取り組みですが、なかなか面白いですよ。

子どもたちがスマホに向かう機会が増え、何に興味を持っているかが見えにくくなった現代。そこには闇バイトにもつながる危険な情報もあふれている。そんな中で不安を抱える保護者世代に向けて、出口さんは以下のメッセージを寄せてくれた。
お子さんに対して、「自分たちはちゃんとあなたを見ているよ」というメッセージをどう伝えられるかが一番大事なことだと思います。いざというときに保護者に相談できるのか、子どもたちは見ています。子どもの変化に敏感になり、キャッチアップすることを意識してほしいです。
家庭内だけで解決が難しい場合には、それぞれの悩みについて相談できる公的機関の窓口がたくさんあります。SNSの発達によってこうした相談の垣根も低くなっていますから、積極的に活用してほしいですね。

出口保行
でぐち・やすゆき 1985年、大学院修了と同時に国家公務員心理職として法務省に入省。全国の少年鑑別所、刑務所、拘置所で犯罪者を心理学的に分析する資質鑑別に従事。心理分析した犯罪者は1万人を超える。その他、法務省矯正局、法務省法務大臣官房秘書課国際室勤務等を経て、2007年法務省法務総合研究所研究部室長研究官を最後に退官し、東京未来大学こども心理学部教授に着任。2013年からは同学部長、2024年からは副学長を務める。フジテレビ「全力脱力タイムズ」にレギュラー出演しているほか、テレビの報道番組・情報番組で年間200本程度のコメンテーターを務める。
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