【前編】犯罪への一歩、その前に止まれたかもしれない —— 草刈健太郎さんと京師美佳さんが語る「闇バイト」の実態

SNSやインターネット上で広がる「高収入」「簡単」などの甘い言葉に誘われ、知らないうちに犯罪に加担してしまう“闇バイト”。防犯アドバイザーの京師美佳さんが聴き手となり、若者支援に携わる草刈健太郎さんを招いて、その危険性と対策について語り合いました。
■草刈さんのプロフィール
・被害者遺族でありながら元受刑者に住居や職の提供など加害者支援を行う経営者
・カンサイ建装工業株式会社、日之出塗装工業株式会社、オープンブックマネジメント株式会社の代表取締役。日之出グループの3代目経営者。近畿大学法学部卒。公益財団法人日本財団の再犯防止プロジェクト(職親プロジェクト)の立ち上げメンバー。再犯防止の活動などは多数メディアに取り上げられている
■京師さんのプロフィール
・防犯アドバイザー、防犯対策専門家として全国での講演やメディアにも多数出演
・防犯アドバイザー・防犯対策専門家として、建物の防犯プロデュース・設計などを行い、8千件を超える防犯事案も対応。企業の商品監修も多数手がけ、メディアでは文化人タレントとしても活動。全国で講演も展開。Yahoo!ニュース公式コメンテーター、一般社団法人全国住宅防犯設備技術適正評価監視機構理事
「簡単に稼げる」「バレない」「高収入」――SNS上でささやかれる甘い言葉の裏に潜む”闇バイト”の実態。
今、普通の若者たちが知らず知らずのうちに犯罪に巻き込まれる事例が増えています。防犯アドバイザーとして現場に寄り添ってきた私、京師美佳が、若者支援に尽力する草刈健太郎さんとの対談を通して、その実情と防止のヒントを読み解きます。
京師美佳(以下、京師):今日は、若者が「闇バイト」に巻き込まれないようにというテーマで、※1職親プロジェクトという加害者支援で若者とも深い関りをもたれている草刈健太郎さんにお話を伺います。草刈さん、よろしくお願いいたします。
草刈健太郎(以下、草刈):よろしくお願いします。
京師:草刈さんと私、実はお会いするの7年ぶりなんですよね。でもSNSではずっとやり取りしてたので、昨日会ったような気持ちです(笑)
草刈:ほんとに、久しぶりな感じがしないですね(笑)
京師:その気軽さがSNSの良さであり怖さですよね。
※1:職親プロジェクトとは少年院出院者等の更生を参加企業みんなで支える、そして参加企業が抱えた課題や解決を参加企業や専門家みんなで考え、議論し、互いに支え合う活動です。
■SNSと「闇バイト」、普通の若者が巻き込まれる危険
京師:近年、SNSを通じて色々と募集されている闇バイト。例えば運び案件5万~15万、UDと隠語を使って”受け子”、”出し子”の募集とかが少し気軽な雰囲気を装い募集されています。または大手求人サイトの中で、例えば軽貨物、コールセンター、シール貼りなど普通の仕事を装って闇バイトの募集をしています。普通に生活してきた子たちを巻き込んで組織化しているところがあります。草刈さんがこれまで対応された中で、SNSを通じて闇バイトをした子のお話があれば教えてください。
草刈:はい。例えば、ゲーム好きなゲーマーみたいな普通の子が、SNSを通じて悪い道に引き込まれたことがありました。悪い組織の人間っていうのは、パソコン使える優秀な子とか、なんかこの子能力高いなぁという子がいてYouTubeやSNSあげていたら、この子ひっかかりやすいはずだとスカウトしてくる例もあると聴きます。
◆京師美佳の視点解説:

「誰もが加害者になり得る」SNSという無防備な窓口
SNSは“つながり”を生む一方で、“隙”をも作り出します。特に闇バイトのような詐欺的勧誘においては、匿名性と即時性が悪用され、本人に「自分が加害者になる可能性」すら自覚させません。私は、防犯の第一歩は「誰でも狙われる立場である」という意識を持つことだと考えます。 “普通の子”が犯罪に引き込まれているのが現実です。これは個人の資質ではなく、構造的な「仕掛け」の問題です。一般的に知られているSNS上で個人情報を送らせて、それを盾に犯罪に加担するよう脅迫してくる以外にも、興味や特技を悪用して近づき、やがて人間関係で囲い込み、犯罪に加担させる手口もあります。
■闇バイトを仕掛ける犯罪者たちの巧妙な手口
京師:犯罪組織からスカウトっていうのが凄いですが、そういった特技や能力のある子は狙われやすいということですね。
草刈:ゲームのソフトでこんなことできるよ、面白いバイトあるよと声をかけられて、気づけば詐欺の “受け子”や“出し子”になっていたというケースもあって。最初は普通のバイトのつもりでも、だんだんと抜け出せない状況になるんですよね。
京師:興味のある事で引っ張るんですね。
草刈:そうなんです。なかなか抜け出せないんですよ。しかも、お金は手元に残らない。あぶく銭だと犯行途中の待機時間にパチンコや飲食などで使ってしまって、最終的には何も残らないんです。
■孤立した若者が狙われる理由
京師:少年院などで出会った若者も、やはり闇バイト経験者が多いですか?
草刈:多いですね。彼らの共通点は、仕事がなくて暇、孤独、お金がない、そして誰にも相談できないということ。そういう若者を狙って、最初は良いこというんですよね。最初からオレオレ詐欺をしろと言われたら無理ですってなる。最初の3、4回目ぐらいはまともな仕事を用意して、段々と悪の道にね。
京師:SNSでのスカウトも巧妙ですよね。隠語を使って募集したり、求人サイトに紛れ込んでいたり。若者が知らずに応募してしまうのも無理はないかと思います。
草刈:彼らは友達感覚で誘ってくる。だからこれは犯罪だと思えないまま始めてしまう。
京師:社会的に孤立感を抱いてしまっている若者がその隙間に付け込まれる可能性はありますね。
草刈:地方から来て友達がいなかったり、寂しさが募って、相談する人がいなかったりするんですね。
京師:孤立していたら、騙しやすいですよね。
◆京師美佳の視点解説:
「孤独は防犯の弱点」——心の隙間が犯罪を呼び込む
闇バイトで得たお金は、恐怖や罪悪感、生活の不安を紛らわせるためにすぐに消費され、次の犯罪に依存せざるを得ない“中毒構造”に陥ります。これは金銭教育の不足とも密接に関係しています。
そして闇バイトの背後には、「孤立」があります。誰にも頼れず、寂しさを抱えている若者に、ほんの少しの優しさを装えば、相手を信用させることができる。これは犯罪者にとって“効率的な勧誘戦略”なのです。防犯活動をする上で“見守りの力”が地域にどれだけ存在するかはとても大切なことです。「あの子最近元気がない」「夜によく出歩いている」などの“違和感”を察知する目を周りの大人たちが持つことこそ防犯の最前線なのです。
■闇バイトが若者に与える影響。対象は「孤立した若者」
京師:軽い印象を与えて罪の意識はあまり感じさせない。犯罪へのハードルを低くする。またその子が友達を引き込む流れですね。友達から誘われたら、気軽に参加してしまうこともあるんじゃないですかね。
草刈:まあ、それはありますね。一方で、地方から出てきて友達がいないような人は、SNSで狙いやすいんです。
京師:地方から都心に出てきたばかりの人とかのケースですかね。
草刈:要するに周りに誰も相談する相手がいなので。普通の友達なら「君、それは犯罪!」とか気付くので。だから、そういう地方から東京や大阪へ出てきた人とかがSNSで狙われやすいのと、地元の友達から誘われて、特殊詐欺に関わった人は大変だと思う。抜けられない。
◆京師美佳の視点解説:
「友達」からの誘いが最も危険——信頼が裏切られる瞬間
優しい顔の人物が、信頼を得てから突然脅し役を投入する——この手法は、心理操作の典型です。優しさで囲い込み、依存させ、恐怖で支配する。防犯の観点からも、若者に「見かけの優しさの裏」を見抜く力を養う教育が急務です。
見抜く力といえば、更に必要なのが友達を見抜くこと。“友達だから大丈夫”という心理が、もっとも犯罪に対する警戒心を鈍らせます。とりわけ、地方から都市部に出てきたばかりの若者は、知人とのつながりを求めているため、最初の接触が「先輩」や「同郷者」だった場合、判断力を奪われやすくなります。
親しさ=安全ではないことを心に常に留め置く必要があります。
■自己肯定感の欠如と犯罪への引き寄せ
草刈:要するに、自己肯定感と自己信頼心がない者、信用できる友達がいない、守るものがいないってことは自己肯定感も作れませんからね。自分が死んでも誰も悲しまないとか、そういう子は悪い人に引っかかりやすいですね。
京師:では、後半ではどのようにすれば闇バイトに引き込まれないのかなど対策のお話を伺いたいと思います。
◆京師美佳の視点解説:
「闇バイトは“誘い”から始まる——“普通の子”が狙われる構造」
SNSでのスカウト、求人サイトへの潜伏、仲間からの紹介。闇バイトに若者が巻き込まれるルートは、あまりにも身近です。犯罪に至るまでの“初期接点”は、“優しさ”を装って近づいてくるケースもあります。
孤立した若者、家庭に頼れない若者、自信を喪失した若者。こうした心理的・社会的脆弱性に付け入る犯罪者たちは、あらかじめ「狙いやすい属性」を把握しています。
また、少年犯罪の背景には、自己肯定感の欠如が根強く存在します。「どうせ自分なんて」と思い込んだ瞬間、犯罪へのハードルは極端に下がるのです。この視点からも、「声かけ」「共感」「小さな関係性の構築」が、未然防止の最前線にあると考えます。