NEWSNSのアルバイト募集に潜む「闇バイト」――。 刑法学者に聞く、若者が犯罪に巻き込まれないための予防策

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「高額」「即日」「ホワイト案件」――。SNSでアルバイトを探していると、魅力的な言葉についつい目が行ってしまいます。タイムラインを見ているだけで自分に合いそうな仕事が流れてきて、その場で応募できる。そうした手軽さに、日頃からなじみがある人も多いのではないでしょうか。

しかし、その中には、知らないうちに犯罪に加担させられてしまう「闇バイト」も紛れています。実際に逮捕されているのは、前科のない、ごく普通の若者たちです。

なぜ若者は闇バイトに引き込まれてしまうのか。そして、どうすれば防ぐことができるのか。刑法が専門で、特殊詐欺や闇バイト問題に詳しい多摩大学の樋笠尭士准教授に話を聞きました。

ポイント

・SNSでのバイト探しは、犯罪組織と接点を持つリスクがある
・「アプリを入れろ」と指示するバイトは危険信号
・お金の余裕がなくなると判断力が落ちる――金融リテラシーも予防の鍵
・大学や信頼できるサイトでバイトを探す習慣を身につけよう

 

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■樋笠尭士(ひかさ たかし)准教授 プロフィール
多摩大学 経営情報学部 事業構想学科 准教授。刑法(故意・錯誤論)を専門とし、警察官向け教科書の執筆や法務省の特殊詐欺研究の委託研究官を歴任。多摩市の防犯有識者委員を務めるほか、警視庁サイバーセキュリティ対策本部と連携した啓発活動、学生とともに立ち上げた「多摩サイバー犯罪対策ボランティア(多摩CCPU)」での違法情報通報活動など、研究と実践の両面から特殊詐欺・闇バイト問題に取り組む。

SNSに広がる闇バイト募集

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近年、闇バイトに若者が関わるケースが増えている背景について、樋笠准教授は、SNSの普及が大きいと指摘します。

現在、アルバイト探しは、求人サイトだけでなくSNSでも行われています。朝起きてスマートフォンを開き、タイムラインに流れてくる情報を眺める。その中にバイト募集があれば、わざわざ探そうとしなくても自然と目に入ります。応募も簡単で、履歴書が不要なこともあり、やり取りはすべてスマートフォンの中で完結します。

こうした手軽さはとても便利です。その一方で、誰でも情報を発信できるSNSでは、犯罪グループも同じように募集を出すことができます。しかも、それらは一般のアルバイトと見分けがつきにくい形で投稿されています。

さらに、普段の情報収集ややり取りがSNS中心になると、その中で見える情報がどうしても偏りやすくなります。タイムラインに流れてくる情報は自分に合ったものが多い分、危険を知らせる情報が入りにくくなるのです。気づかないうちに、判断する材料が限られてしまうでしょう。

#高額、#即日、#ホワイト案件に違和感を持てるか

樋笠准教授は、闇バイトの募集には、共通する特徴があると指摘します。

#高額、#即日、#初心者歓迎、#ホワイト案件、#安心

一見魅力的に見えるハッシュタグですが、少し立ち止まって考えてみれば、不自然な点に気づくはずです。

通常、初心者に対して最初から高額な報酬を払う仕事はありません。また、「ホワイト」「安心」といった言葉をわざわざ強調する求人にも注意が必要です。しかし、普段からSNSの中で情報を見ていると、こうした違和感に気づきにくくなってしまうのです。

また、樋笠准教授は、「若者の金銭的な不安」によって判断力が鈍くなってしまうことも指摘しています。

法律の改正により、18歳から成人と認められるようになったことで、学生でもカードローンを利用できるようになりました。スマートフォンも分割払いで購入でき、自分名義のクレジットカードも持てます。便利な仕組みですが、使い方によっては支払いが積み重なり、気づいたときには余裕がない状態に陥ってしまいます。

たとえば、カードローンを限度額まで使ってしまうとします。しかし貯金もないため、翌月の引き落としに間に合いません。すると、慌てて「アルバイトをしなければ」と考え、SNSで即金性の高い仕事を探してしまうなど、負の連鎖に陥ってしまうのです。

焦るとどうしても判断を急いでしまいます。普段なら慎重に考えて判断する若者でも、#高額、#即日といった言葉に引き寄せられてしまうのでしょう。

月収の3分の1以上をクレジットカードで使わないこと。利用枠があっても限度額まで使わないこと。日頃から無理のない範囲でお金を管理し余裕のある状態を保つことが冷静な判断につながると、樋笠准教授は学生たちに伝えています。

SNSで実行役を集める匿名・流動型犯罪グループ

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SNSの普及により、犯罪グループは誰にでも接触できるようになりました。それによって、犯罪歴・非行歴のない普通の若者が、詐欺グループに巻き込まれているといいます。樋笠准教授はこの状況に対し、「裏社会が表に来ている」と警鐘を鳴らしています。

SNSで実行役を集めるネットワーク型の犯罪は、「匿名・流動型犯罪グループ」、通称「トクリュウ」と呼ばれています。

「令和6年警察白書」によると、令和5年に特殊詐欺で検挙された「受け子」などのうち、41.8%が「SNSから応募した」と供述しています。SNSで見つけた仕事が、そのまま犯罪につながっているケースが少なくないのです。

SNSで募集される闇バイトでは、犯罪の中でも「実行役」を任されるケースが多くあります。たとえば、被害者から現金やキャッシュカードを受け取る「受け子」、ATMで現金を引き出す「出し子」、電話でだます「かけ子」などです。

一見すると単純な仕事のように見えますが、こうした役割は防犯カメラや目撃などの証拠が残りやすいため、逮捕されやすくなってしまいます。指示を出している側は姿を見せないため、実行役はリスクだけを引き受ける構造になっているのです。

サイバー犯罪対策ボランティア「多摩CCPU」の活動

樋笠准教授のゼミでは、学生による「多摩サイバー犯罪対策ボランティア(多摩CCPU)」を立ち上げ、SNS上の違法投稿の監視・通報活動を行っています。犯罪が起きる前に募集段階で食い止める「未然防止」を重視した取り組みです。

活動では、Xやインスタグラム、スレッズなどを巡回し、闇バイト募集や不審な投稿を発見・通報しています。誰でも参加できるよう「多摩CCPU簡易マニュアル」を作成し、投稿の特徴や通報手順を整理しました。

活動は、警視庁公安第三課や警視庁サイバーセキュリティ対策本部と連携して進められています。警視庁の依頼を受け、ゼミ生と警察職員が拓殖大学で説明会を実施し、新たなボランティアグループの立ち上げにもつながりました。

多摩CCPUでは2024年2月7日よりパトロールを開始し、2025年11月時点での通報件数は6784件に達しています。こうした活動の中で、SNS上の投稿と実際の犯罪の関係も見えてきました。

樋笠准教授は、9月ごろに闇バイト募集の投稿が多く見られた時期があり、その2〜3か月後に同様の手口の事件が発生していたと指摘します。こうした経験を踏まえ、「交通事故の防止月間のように、あらかじめ注意を強める時期を設けることも必要ではないか」と提案しています。

怪しいハッシュタグと「アプリを入れろ」に注意

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樋笠准教授は大学1年生の授業で、毎年「闇バイト」をテーマに90分の講義を行っています。そこで伝えているのは主に闇バイトの見分け方や金融リテラシーの大切さなどです。

#高額、#即日、#安心、#ホワイト案件などのハッシュタグを並べ、「どれが危ないと思うか」を考えるクイズ形式も取り入れています。一見すると魅力的に見える言葉でも、少し立ち止まるだけで見え方が変わることを実感してもらうためです。

また、樋笠准教授は、アプリを入れるよう指示された場合には闇バイトである可能性が高いと指摘します。

特にシグナルやテレグラムといった、やり取りの履歴が残らず、スクリーンショットが撮れないアプリを指定された場合は、強く警戒する必要があります。履歴を残さないのは、犯罪の指示が証拠として残らないようにするためです。万が一事件が発覚した場合でも、指示を出している側は責任を逃れ、実際に動いた人だけが取り残される構造になっています。

SNSに日常的に触れているということは、犯罪組織がいつでも接触できる場所にいるということでもあります。しかし、その危険を自分の問題として捉えられない若者も少なくありません。闇バイトの存在を知っていても、「自分が巻き込まれるはずがない」と考えてしまうのです。

こうした危うい状況を自分事として理解してもらうのは、決して簡単ではありません。そこで樋笠准教授は、授業内で実際に起きた事例を紹介しています。

免許証の写真を送るよう求められて従ってしまい、その画像をネタに脅されて抜け出せなくなってしまった。自分ならどうするか。リアルな事例を知り想像することが、最も効果的だといいます。

一番の対策は、SNSでバイトを探さないこと

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闇バイトで加害者にならないためには、まずはSNSでアルバイト探しをしないことだと樋笠准教授は強調します。大学の指定するアルバイトサイトで探す、近所の店のアルバイト募集に応募するなど、なるべくリアルなつながりを重視すべきなのです。

また、スマートフォンの中で完結させず、パソコンで探すことも重要です。探し方そのものが変わるからです。

SNSでは流れてきた情報にそのまま反応しがちですが、パソコンで検索する場合は、サイトを選び、条件を比較しながら探すことになります。その結果、正規の求人にたどり着きやすくなります。また、メール作成や入力の手間があることで、「本当にこの仕事でいいのか」と立ち止まって考える時間も生まれます。こうした違いが、リスクを避けることにつながるといいます。

やむを得ずSNSから探す場合でも、#高額、#即日などの怪しげなハッシュタグ、アプリインストールの要求を見たら即「闇バイト」だと考えて引き返してください。

「怪しい」と思ったら警察へ。警察はあなたを守る存在です。

万が一、犯罪組織とつながってしまい、詐欺行為への加担を求められた場合は、その場から離れ、すぐに相談することが重要です。樋笠准教授は、授業でも「一人で抱え込まず、早い段階で逃げること」を繰り返し伝えています。

警察庁も「脅されても加担せず、迷わず警察に相談してほしい」と呼びかけています。実際に、SNSなどを通じて「闇バイト」に応募し、犯罪への加担を強要されるおそれがあった人やその家族について、2025年11月末までに全国で累計544件の保護措置が講じられたと報じられています。

最後に、樋笠准教授はこう語ります。

「もし犯罪グループに脅されていたら、すぐに逃げてください。警察はあなたを守る側にいます。捕まえることだけが目的ではありません。実際に保護されている人も多くいます。だからこそひとりで抱え込まず、できるだけ早く相談してください。早く動くほど、守られる可能性は高くなるのです。」

 

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